(日記) 秋風とせせらぎ
キラキラ輝く池と岩。
その中で静かに流れる
せせらぎと子どもの笑い声。
黄緑の雑草広場の角には、
細長い漆黒のベンチが、
決して訪れた人を邪魔することなく
静かに置かれていた。
「よ〜い ドン!」
端っこから端っこまで。
何度も走り回る息子の背中は、
いつの間にか大きく
そして強くなっていた。
暖かい岩の上に
小さいおもちゃを広げ
風に揺れる影と一緒に
日向ぼっこをしている娘。
そこには、
雲ひとつない真っ青な空が、
果てしなく続く山々が、
名前の知らない鳥のさえずりが、
ゆっくりと揺れる金色のススキが、
決してバラバラではない、
一つとして流れていた。
偶然見つけた古民家カフェ。
美味しいプリンを争う小さな手。
丁寧に作られた塩おにぎりと
丸く暖かいおしぼり。
至る所に配慮が感じられる小物の数々。
子供は教えなくてもその全てに気づき、
自分が歓迎されていることを知っていた。
そしてその無邪気な後ろ姿に、
午後の日程はどうでもよくなる。
***
ランチ時間。
限られた自然食を目当てに、
次々と車と人が現れた。
かわいい。
かわいい。
かわいい...。
小物や古いオブジェ。
有名なプリンを前に何度も笑顔で
写真を撮ることに夢中な人々。
目の前にある対象を
ありのまま見ることなく、
記録し過去に残すことに夢中な人。
そしてまた未来のことでいっぱいの人。
...。
その夢中は、そこがどこであれ、
絶え間ないシャッター音のように
次々と対象を変えていった。
こだわりの素材、小物の配置、
古民家特有の雰囲気と安らぎ。
それら全てが絶妙なほど
秋の風景に溶け込んでいる
今日という幸運に気づいている人は
あまりいなかった。
価値。
みんなが探し求めるその価値は、
小さいスマホ画面から覗き込む
その写真の中にあるだろうか...。
綺麗な角度や上手く切り取られた
イメージや無数のハッシュタグや
いいねの中にあるだろうか。
目の前にあるものを
ありのまま見ることが
できないというのに...。
刻々変化する光や風に
安らぎを感じることが
できないというのに...。
過去や未来にとらわれ、
今を生きれないというのに...。
数千数万のいいねやフォローに
何の意味があるというのだろう...。
...
「はやく!はやく!」
手を引っ張られ、よじ登った
その岩のてっぺんには...
揺れる金色のススキのように
過去でも、未来でもない今が、
... 息子の笑い声とともに
静かに流れていた。
* BGM : 庭の木のみる夢 | ハンバートハンバート