波が打ち寄せる渚で。
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波が打ち寄せる渚で、
砂が消えては現れる
その曖昧な境界線で...
ズボンを巻き上げて
靴を脱ぎ裸足になる。
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五本の足の指に...
当たっては引いていく感覚。
遠くで響き渡たる波が耳元で弾け...
それから全ての音を消し去る感覚。
冷たい、温かい...
力強い波の後に感じる、
ふわっとした感覚。
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注意深くいること。
波が打ち寄せる渚で...
自分の感覚に耳を傾けること。
日々の浮き沈みのように、
全身に襲いかかる海風のように
目の前に広がる今を…
あらゆる感覚と共に眺めること。
終わりの無いその繰り返しを
限りある生の中で眺めること。
幸せ、喜び。
悲しみ、怒り。そして不安。
注意深くいることは...
自分が好きな感覚だけを眺め、
追いかけることでも、
また好まない感覚から逃げ出し、
隠れることでもないことを…
私(たち)はつい忘れてしまう。
あの時の傷や苦しみ。
未知の不安や恐怖。
私(たち)を苦しめる何かから...
喜びや幸せに満ち溢れる
居心地の良い場所にたどり着くまで
逃げ出してしまう。
そう、この命が続く限り...
終わりのないその動きを、
限りある生の中で飽きもせず…
今日もまた今日も…
繰り返してしまう。
...
でもね。
あの自然の前では無力な人間だから...
不安な自分を思考で誤魔化すしかない、
か弱い人間だから...
だから...波が打ち寄せる渚で、
壮大なあの自然ではなく、
ちっぽけな自分を眺めてしまうのね。
…
注意深くいること。
それは...そうやってささやく思考を…
肯定も否定もしないで眺めること。
あの海風のように...
あらゆる感覚と共に眺めること。
...
そう、それは...
感覚や思考...その全てを消し去る、
あの海...
あの子供の笑みを…ただ眺めること。