(日記) 自由
「大変、ご迷惑をおかけしました...。」
沈黙の電車の中で流れるアナウンス…。
その独特の軽さとリズムは「週明けの朝」という日常となり、その本来の意味を失っていた。
そして、その違和感に気づくことも、異議を唱えることもない「日常」が、見慣れた景色のように人々の頭の上を通り過ぎていく..。
そこには、何もかもが新しく始まるはずだった四月の景色が、相変わらず眩しく輝いていて、「美しい...」としか言いようがない透明な「何か」で満たされていた。
「...他の方のご迷惑になります。」
「... 咳エチケットをお願いいたします。」
そして、お詫びの次に流れるその言葉に、違和感を感じているのは、自分一人だけのようだった。
輝く景色を背景に、空虚な言葉が、マスクと共に揺れているのを見るのは不思議な感じだった。私を含む多くの人が、その景色には目もくれず、小さいスマホや本の中で「何か」を必死に探し求めていた。
成功・大学合格・暇つぶし・いいね・非難・代理満足・快感...。
形は違っても、人はその中で自分を慰めてくれるもの、恐怖や苦痛を忘れさせるもの、自分を認めてくれるものを絶え間なく探し求めていた。
しかし、人々が探し求めるその「何か」は、スマホや小説・参考書などあらゆる手段の中には決してなかった。
それは「日常」と言われる見慣れた景色の中で、決して気付かれることのない平凡さをして、今日も、人々の頭の上で眩しく輝いていた..。
***
自由とは何だろう...。
それは、不安と恐怖を抱えたまま仕方なく出勤をし、そういう自分に怒ることのように、そういった何かに対する反動としての感情を吐き出すことだろうか...。
また、自分を束縛しているあらゆるものからの解放を望み、そうできない自分を嘆き、「私には自由がない」と言うとき、そこに... 本当の自由があるだろうか...。
自由とは、感情や思考の単なる反動として、その都度私の必要に応じて生まれるものだろうか。
それとも、その反動や自分の思考、それら全てを見つめ、自ら自覚すること。それで、その不安と恐怖から逃げることなく、観察し続けることだろうか。
その観察の中、自分が抱える虚しさから目を逸らし、逃げることの無意味さに気づき、承認欲求に隠れた正当化と快楽を見つめられる自由。死ぬまでこの全てを抱え続け、絶え間なく悲しみを作り続けているのは「他ならない自分である」ことに気づく自由に気づくことができるだろうか。
それは「これが本当の自分の姿だ!」と言うこと、自分の都合や社会の基準による選択の自由と呼ばれるものだろうか。
それとも、思考や反動を伴わない「無選択な気づき」の中で、ただ見つめるとき初めて現れる何か、如何なる対象も、如何なる原因も持たない「それ自体として存在する」何か、その観察を持って、その全てに「ノー」と言える、言葉で言い表すことのできない、何かだろうか。
では、私に、この全ての虚しさと悲しさを見つめ、それを即座に否定する自由があるだろうか?...。
自由について問い続けている間は、私は働き続けるべきだろうか。
それとも、その足を止めて悲しさを即座に終わらせ、自分に問うべきだろうか?
...。
向かい側には、楽しくお喋りをしている四人の女子高校生と、ブランドのスーツを纏って目を閉じている会社員が、並んで座っていた。
制服とパンプス、そして靴下まで同じである彼女たちは、派手なブランドの会社員とは対照的に、生き生きとしたエネルギーに溢れていた。
その高い笑い声と笑みは、窓越しから点滅する鮮やかな景色の光のように、電車の中を明るく照らしていたが、隣の彼は全く気付いていないようだった。
自由は、決してブランドやきれいなスーツ、ニュースをチェックするその真剣さの中にはなかった。それは、素直に喜ぶ笑み、そこから溢れるやさしさ、そしてそれら全てが自然に引き出す素敵な笑顔の中に、疲れている友だちに喜んで席を譲るその思いやりの中にあった。
...。
「社会のために」
「弱者のために」
「腐敗した政権を審判するために」
政府や誰かを非難している政治家。きれいなスーツと派手な選挙カーに乗って、今日も彼は人々の頭の上で「自由」や「権利」を叫んでいた。そして「投票」こそ「民主主義」であり、腐敗した政権を変える正当な手段、新しい歴史を作る「国民の選択」だと訴えていた。空虚な非難と約束が、あのアナウンスのように人々の頭の上を流れていった。
その中には、無能な政府かそれを非難する政治家を選択する自由、それらから無関心である自由はあっても、「その全てを否定する自由」、「繰り返されるだけの悲しみと虚しさを拒む自由」は決してなかった。
私には、そのどちらを選ぶこと、それとも選ばないことで無責任だと言われる、自由という名前で覆い隠された「束縛」と「制限」があるだけだった。
...
「...他の方のご迷惑になります。」
輝く景色を背景に、空虚な自分の言葉が、あの違和感と共に揺れている。
* BGM : 海辺の街まで | ハンバートハンバート
#追記:
自由とは、
権利や義務のように、国から与えられるものでしょうか。それとも、それは私たちが一度も感じたことのない全く違う「何か」でしょうか。
自由のない生活。
その繰り返しに苦しむ理由は、
本当に自由がないからか、それとも
本当の自由を知らないからか...。
正直よく分かりませんw