(日記) 蝶と平和
どの花とも異なる色の蝶が、
静まり返った空き地の上を
優雅に飛んでいた。
何の迷いも何の抵抗もなく、
軽々しく花から花へと飛び回り、
時々花には何の興味も無いかのように
仲間と戯れ合っているその姿に
見入っていると…
あの蝶の名前は?
次はどこに?
静まり返ることのない思考が
今日も頭の中で飛び回り始める。
そうやって思考に囚われたまま
蝶を追いかけても、蝶は常に…
決して見たことのない弧を描きながら、
狭い自分の視界(思考)から消えていった。
***
いつもそこにあるという思い込み、
いつでもそれに触れることができる
という安心感とその積み重ねである惰性。
当たり前すぎて…つい通り過ぎてしまう
のどかな日常の美しさと平和を...
今日も僕は、ありのまま見ることなく
狭い自分の思考を通して眺めていた。
そうやって自分が、
目の前の対象を自分の知識や経験から...
そこから浮かび上がった狭い思考から...
眺め、評価していることに気づくとき。
まさにその気づきと知覚が…
あの蝶のように...ここからあそこへと
次々と飛び回る思考を静まり返らせる。
***
一度も見たことのない雲と空。
茂った草の間を行き交うあらゆる昆虫。
息もせず静かに何かを待っている蜘蛛。
風になびく葉っぱと花々の波しぶき。
気づいていなければならない。
沈黙しなければならない。
これこそ観察で、瞑想である。
誰かの権威や言葉から眺めることなく、
そう自分に言い聞かせることなく、
それで、その沈黙をもって静かに...
その全てにただ...とどまる時。
雲も、昆虫も、雑草も、花も、
それら全てに触れるあの風も...
決してバラバラではなく、互いが
互いを支え合っている一つであることを...
人は、誰かの言葉や知識からではなく、
自分の感覚で感じ取り、気づき、
そしてそこにある、美しさと平和を見つける。
***
平和とは何だろう?
それは...眉間にシワを寄せて、
声高に掲げる気高い理想だろうか。
自国や自分の平和のために、
誰かの平和を犠牲にする、それで...
その手段としてのあらゆる暴力を
正当化する、何かの目標や信念だろうか。
また、立派なスーツで授賞式に参加し、
無意味な演出に喜び、それを褒め称えたり
自慢したりする、その何かだろうか。
...
それとも、平和は...
思考では見つけられない、感じ取れない、
それで...決して言葉にはできない何かだろうか。
果てしなく捨てられるゴミや自然破壊。
食べられるために生まれる命。
便利さと安さに失われる健康。
原発・新しい発電や電波による危険性...。
そのとき、自分の小さな信念や価値観から
何かを眺め、その反動や反応から憤りを
覚えたり、受け入れたり、諦めたりする、
その中に、平和はあるだろうか。
自分が信じたい何か...
決して否定されたくない大事な何かを
守るために...人は今日も平和や未来を掲げ、
誰かを説得したり、納得させることに
夢中になっていないだろうか。
果たしてその中に、平和はあるだろうか...。
***
空き地に響き渡るセミの鳴き声。
鳥のダイナミックな羽ばたき。
湿った庭の片隅でくつろいでいる蛙の背中。
そしてその全てを眺める、しなやかな
ユーカリの葉っぱ。
灰色の雲に姿を消した蝶の代わりに...
白いたんぽぽのわたげが...
静まり返った空き地の上を、
優雅に舞上がっていた。