韓国人パパの人生と育児 with 哲学

育児と人生について、クリシュナムルティ(J. Krishnamurti)の言葉から気づく日常を書き残しています。コメントや批評全てご自由に。

(回想)死と関係

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「ああ、おまえのことを忘れるなんて!」

「ごめんね.... ごめんね... 」

 

かなアルコール匂いがする、

味気ないカーテンの前で、

祖父は、私の手を強く優しく

握りながら... そう言った。

 

末期膵臓癌。

座っているだけで精一杯の

やつれた体と細い指...。

 

またもや思考は目の前にいる

ありのままの事実に

過去のイメージを呼び起こし、

その二つを絶え間なく比較していた。

 

そうやって思考は... 決して...

何年ぶりのめでたいこの再開を

素直に喜ばせてくれなかった。

... 

「ひ孫がこんなに大きくなったよ」

「もう4歳で体操もできるよ」

「…はやく元気になってね」

「今度、連れてくるから...」

 

笑顔の家族写真を渡しながら

私が淡々とそう言うと、

 

「そうか、そうか!」

「飛行機は大変だもんな...」

 

祖父は写真を見ながら、

まるで実物を触るかのように

ひ孫の顔を何度も何度も

優しく撫でていた...。

 

何の目的も、

何の意図も感じられない

その言葉と動作を前に...

 

自分ができることは、ただ...

この短い会話が途切れないように

今聞かなくてもいいような...

他愛もない話を続けることだけだった。


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誰かのうめき声と短い咳。

ベッドを動かす冷たい機械の音。

気力を失い横になっている人の気配。

無言でテレビを眺める背中。

病院名が無数に印刷された白い患者服。

何とも言えないヘルパーの表情。

暗くて重い圧迫と日常と掛け離れた匂い。

 

その絶望に近い何かに

潰されそうな病室の中で、

 

彼は孫の手を握り、

見たことのない

ひ孫の話に耳を傾け、

親しみ溢れる眼差しと言葉で、

そして温かいその手で...

全身全霊で私に向き合っていた。

 

あ...

自分が探し求めた「関係」は… 

まさにそこにあった。

 

相手を見つめ、

その瞳をみつめ、

思考を忘れ、自分を忘れ、

そしてあらゆる時間を忘れ、

言葉一句一句に集中するその中に。

 

今度、またいつか聴く話ではなく、

未来や過去の記憶とは無関係な、

今この瞬間が最後であると気づき...

その話に耳を傾けるその中に。

 

いかなる報いも求めない、

誰かの教えに従ってでもなく、

ただ与えるだけで

自ら満たされる何かの中に。

 

正しい、正しくない... 正しい...

果てしなく繰り返される

その基準や理想、またそれらを

達成するための努力からは

決して得られない何かの中に。

 

考えるだけで胸が熱くなるような

あらゆる本や過去の記憶からは

決して見つけることのできない、

思考が掴むことのできない何かの中に。

 

それで、思考による感情を伴わない

「悲しい」「嬉しい」... という言葉を

つけない、涙が流れるその中に、

それはあった。

 

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すっかり忘れていた

数年前の出来事を…

私は道端に咲いた

赤いコスモスをみて

思い出していた。

 

関係はどこにあるだろう...。

 

それは、一日の大半を過ごす

あの狭くて人工的なビルの中や

何かの利益のために協力し合う

その中にあるだろうか。

 

果てしなく繰り返される

比較と競争を当たり前のように

受け入れ、死ぬ瞬間まで

妬みや悲しみを抱えて生きる

その動きの中にあるだろうか。

 

自分の過去から描いた未来を

子供に押し付け、その中で

何かを勝ち取るように...

生き残るようにと、

しつけに夢中になる

その動きの中にあるだろうか。

 

それとも、

自然保護や人権運動、意識改革…

世の中で気高いと言われる

その信念と理想を掲げ、

平和やあらゆる社会貢献で

より気高く、より有名になろうともがく、

その自己満足の中にあるだろうか。

...

それは、あらゆる趣味や話題そして

互いの価値観への共感を装う、

その計算された何かの中にあるだろうか。

 

世俗と離れた場所で暮らし、

物理的苦しみや葛藤から逃避し、

さらに内面的苦しみからも逃れるために

経典や修行に執着するその中にあるだろうか。

 

ブランドのスーツや外車で自分を飾り、

少しバイブルを引用し拳を突き上げる

その偽善の中にあるだろうか。

 

狭い自分の中に閉じこもったまま、

自ら作り上げたイメージを

関係だと思い込み、

また、自分へのイメージの中で

お気に入りのイメージ探しに、

その自分探しに夢中になる...

その中にあるだろうか。

 

恋人ができ、結婚相手ができ、

子供が生まれ、また孫が生まれても

もし... そこに関係が無いなら、

そこに、何の意味があるというだろうか。

 

*****

 

「ああ、おまえのことを忘れるなんて!」

「ごめんね.... ごめんね.... 」

 

孫の顔や記憶を忘れた祖父は、

それから数分後、記憶を取り戻し、

私に何度も... そう謝っていた...。

 

「忘れてもいいのに...」

「ただ生きているだけでいいのに...」

 

伝えることのできなかった

その言葉を、その涙を...

赤いコスモスが静かに見守っていた。

 

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* 邂逅 | ハンバートハンバート

 

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